「引当金に関する論点の整理」について:第2回(2010.03.01)
前回は「引当金に関する論点の整理」の全体像を紹介しました。今回は、IAS第37号改訂案で提案されている認識要件における蓋然性基準の削除と測定方法についての検討内容を解説します。
1.認識要件
本論点整理では、これまでの実務慣行や国際的な会計基準の動向等を踏まえた上で、注解18の認識要件について、見直しの要否を検討する必要があると考えられるとしています。
「企業会計原則」注解18のわが国の会計基準における取り扱いと、IAS第37号およびIAS第37号改訂案における引当金の認識要件を比較すると以下のようになります。
【引当金の認識要件の比較】
| 注解18 | IAS第37号 | IAS第37号改訂案 | |
|---|---|---|---|
(1) |
その発生が当期以前の事象に起因 |
企業が過去の事象の結果として |
負債の定義を満たしており (1)(2)の要件についてはIAS第37号と実質的に差はないと考えられるが、(3)の要件は削除が提案されている。 |
(2) |
将来の特定の費用または損失 |
現在の債務(法的または推定的)を有している |
|
(3) |
発生の可能性が高い |
当該債務の決済のために、経済的便益を持つ資源の流出が必要となる可能性が高い |
|
(4) |
金額を合理的に見積もることができる |
当該債務の金額について信頼できる見積もりができる |
信頼できる見積もりが可能 |
偶発事象 |
発生可能性が低ければ引当金計上不可。 |
偶発負債は引当金計上不可。発生可能性がほとんどない場合を除き、開示される(注解18の考え方と基本的に差はないと考えられる)。 |
偶発負債の用語を削除。 上記の要件を満たしていれば非金融負債として計上し、発生可能性は測定に反映する。 |
注解18では(2)の要件において、将来の特定の費用または損失としていますが、IAS第37号およびIAS第37号改訂案では、負債の本質的な特徴は、企業が過去の事象から生じた現在の債務を負っていることであるとされており、負債の定義を満たすことはIAS第37号の(1)と(2)の要件を満たすことと同じと考えられます。
そのため、IAS第37号およびIAS第37号改訂案と同様の負債の定義を用いる場合には、修繕引当金のような、将来において自らの行動により回避することが可能なものは負債に該当しないことと考えられることとなります。
IAS第37号改訂案においては、(3)の「発生の可能性が高い」という注解18の要件およびIAS第37号の「資源の流出が必要となる可能性が高い」という、蓋然性要件の削除が提案されていることが大きな相違点となっています。
2.蓋然性要件
わが国の会計基準および国際的な会計基準では引当金の認識要件の中に、発生の可能性が高いという要件(蓋然性要件)を設けていますが、IAS第37号改訂案では、蓋然性要件を削除することが提案されているため、検討してみたいと思います。
わが国の注解18では、蓋然性要件に当たる発生の可能性が高いことが明記されているとともに、発生の可能性の低い偶発事象に係る費用または損失については引当金を計上することはできないとされています。
IAS第37号改訂案では蓋然性要件の削除を提案しています。これは、「①負債の定義を満たす現在の債務が存在する場合には、資源の流出が発生する蓋然性にかかわらず負債として認識すべきであり、②将来の事象に関する不確実性は、認識される負債の測定に反映すべきである」という考え方によるものです。
この点についての取り扱いを比較して示すと以下の表のようになります。
| IAS第37号での引当金と偶発負債の分類 | IAS第37号 | IAS第37号改訂案 |
|---|---|---|
現在の債務(present obligation) |
||
発生の可能性が高い(probable)もの |
引当金 | 非金融負債 |
発生の可能性が低いもの |
偶発負債(注記開示) | 非金融負債 |
信頼性をもって測定できないもの |
偶発負債(注記開示) | 非金融負債(注記開示) |
潜在的債務(possible obligation) |
偶発負債(注記開示) | 該当なし(*1) |
(*1)IASBでは、コメント募集後の審議において、現在の債務が存在するか否かが不確実な項目で現在の債務が存在しないと判断した場合について、開示を求めることを暫定合意しています(本論点整理第113項参照)。
◆今後の方向性
蓋然性の削除については、情報の有用性や実務上の対応の困難などの観点から反対意見が多く出されていましたが、IASBではコメント受領後の再審議においても蓋然性要件を削除する方針を再確認しています。本論点整理ではIAS第37号の最終的な改訂において、蓋然性要件の代替となるような取り扱いが導入されるかどうかも含めてIASBの今後の動向に注意していく必要があるとしています。
蓋然性基準を削除する場合、期待値方式による測定に結び付くと考えられ、また現状では注記とされている発生可能性の低い偶発債務を負債に認識することとなるため、測定や開示の論点との関係にも留意する必要があるとされています。
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