1.はじめに
受注制作ソフトウエア産業については、4回のシリーズで解説します。第1回でソフトウエア業の概要を概観した後、第2回から第4回では、2009年4月以降開始される事業年度から本適用となる「工事契約に関する会計基準」のソフトウエア業における論点を解説します。
2007年12月に企業会計基準委員会より企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、基準)が公表され、受注制作ソフトウエアの収益認識基準として、一定の要件を満たした場合には工事進行基準が適用されることとなりました。これまでは、大規模かつ長期にわたる請負工事に関しては工事完成基準と工事進行基準の選択適用が可能でしたが、作業の進捗(しんちょく)に応じて収益を計上する工事進行基準よりも、実際には多くの日本の受注制作ソフトウエア企業は工事完成基準を選択してきました。その背景にはさまざまな業種特有の事象が関連してきています。
本文は弊法人の「受注制作ソフトウェア産業研究会」の意見交換を通じて抽出された論点をまとめたものであり、基準の適用に当たっての検討のヒントとして活用していただきたいと考えます。しかしながら、個々の企業ごとにビジネスの特性や取引の特徴はさまざまであることから、論点の提示および基本的考え方にとどめている点をご理解願います。なお、文中の意見は研究会での自由討議に基づく私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。
2.事業の内容と業界の概要
ソフトウエア業は①顧客の委託により、コンピューター等のプログラムの作成および作成に関する調査、分析、助言を行う「受託開発型ソフトウエア業」と②コンピューター等のパッケージソフトの作成やその作成に関して、調査、分析、助言を行う「パッケージ型ソフトウエア業」に大きく分けて考えられます。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計」によると、2007年の情報サービス業売上高は前年比2.3%増の11兆1,844億円となりました。このうち、ソフトウエア売上高は同2.0%増の8兆1,012億円で4年連続の増加、初の8兆円台を記録しました。ソフトウエアの内訳を見ると、「受注制作ソフトウエア(受託開発型ソフトウエア)」は同1.1%増の6兆6,410億円、「ソフトウエアプロダクト(パッケージ型ソフトウエア)」は同6.0%増の1兆4,601億円で、 ゲームソフトやウィルスチェック、給与ソフトなどのパッケージ型ソフトの販売が増加しました。本稿では、以下、ソフトウエア業の主な形態であり、基準の適用対象となっている①「受注制作ソフトウエア業」について述べていきます。
3.業界の取引形態の特徴
-
(1)受注形態
-
受注制作ソフトウエア産業においては、仕様変更や拡張の自由度が高く、顧客側で発注段階において仕様が完全に決まっていないことも少なくないなどの理由により、受注金額が締結されないまま作業が進むケースや、プロジェクト着手後に詳細な機能仕様を詰めていくケースなど、着手時点ではプロジェクト全体で必要な作業の量・質を正確に見積もるのは困難である場合が多く見られます。さらに、仕様設計段階から開発段階に移っても顧客からの要求などにより仕様変更が行われ、追加作業が発生することが多いことも現状です。
後に述べますが、これらのことが基準の適用に当たって、工事収益総額、工事原価総額、工事進捗度の信頼性のある見積もりの障害になっているといえるでしょう。
-
(2)多重外注構造
-
個別受注生産である受注制作ソフトウエア業界では、常に一定の需要があるとは限らないため、大量のエンジニアを常に雇用することは、固定費としての人件費の増大を招くことになります。また、外注先には、それぞれの分野に特化することにより特有の技術の蓄積があることから、得意分野が存在します。
そこで、大手企業は要件定義や設計を担当し、比較的ルーティンな作業であるプログラミングやテストを外注に委託する形態がとられ、ここにいわゆる業界のピラミッド構造が形成されました。大手企業は建設業界でいうところのゼネコンの役割を担っているといえます。また、外注先企業にとっては、自社が雇用する人員に応じた作業のみを請負うことができるため人員雇用のリスクを回避できるケースや、契約によっては、プロジェクトの遂行やシステムの稼動責任を回避できるケースもあり、これらがメリットであるといえます。
- 業種に特有な会計及び税務処理シリーズ
第11回:商社・卸売業に特有の会計処理と税務 (2010.02.25) - 不動産業
第4回:保有目的の変更・不動産の時価 (2010.02.18) - 不動産業
第3回:不動産賃貸業の事業と会計の特徴 (2010.02.03) - 不動産業
第2回:不動産分譲業の事業と会計の特徴 (2010.02.01)




