1.はじめに
鉄道業とは特定の地点から別の地点に鉄道(軌道を含む)を敷設し、その上を走る車両により、旅客や貨物を運ぶというサービスを提供することで収益を獲得する事業です。
鉄道業は、大きく分けると一般的な鉄道、地下鉄、路面電車、モノレール、新交通システムなどの「旅客鉄道」と貨物の運輸を行う「貨物鉄道」に分けることができます。また、鉄道の経営主体によって、旧国鉄が民営化されたJR各社、民間の鉄道会社(私鉄)、公営(都営・市営地下鉄)、第3セクターなどに分けることができます。
本稿では旅客鉄道会社を対象として、さらに具体的にはJR各社や民間鉄道会社(通称、民鉄)を念頭において上記の事項を3回に分けて連載します。
| 第1回 | 鉄道業の事業内容および会計処理・表示を含む財務報告の特徴の概観 |
| 第2回 | 固定資産および資金調達について |
| 第3回 | 鉄道業における収益認識について |
第1回の今回は
鉄道業の事業環境、特有の取引事象・取引慣行
鉄道業の財務報告に関する内部統制の特徴
鉄道業の会計処理・表示の特徴
について解説します。
2.鉄道業の事業環境、特有の取引事象・取引慣行
鉄道業は特定の地点から別の特定の地点まで軌道を敷設し、その上を走る車両を利用して人を運ぶというサービスを提供することにより、運賃という収益を得る事業です。旅客運輸事業は人が移動するための重要な社会インフラであること、また、大量の人員を輸送するため高い安全性の確保が求められていること、特定の地域において独占的に営業することなどから、国土交通省の管轄下にあり、「鉄道事業法」という特例法によりさまざまな許認可を得ることが求められる規制業種です。
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(1)設備投資と資金調達の特徴
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鉄道業においては、「旅客の安全」の確保が最も重要で欠かせないものとなります。このため、踏切道の廃止や構造改良、運行管理システムの機能向上、各種保安設備の整備等の推進が大きな課題となります。また、新線の建設や線路の複線化・複々線化、車両の新造、駅の改良などの利便性の向上を行い、通勤混雑を緩和するための「輸送力増強」を図っています。さらには駅や車内施設の「バリアフリー化」を実施し、乗客への「サービス向上」を目指しています。これらの事業環境から、鉄道事業者は毎期多額の固定資産への設備投資を行っています。
このように鉄道業は公共性の高い事業であり、「安全確保」等のため毎期多額の設備投資を行うことを求められていることから、政府等の助成・補助制度、特定都市鉄道整備積立金制度、日本政策投資銀行からの総事業費の50%までの政策融資など各種制度が設けられています。
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(2)運賃の設定方式の特徴
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鉄道業においては、その設備投資コストを運賃に転嫁できなければ経営が成り立ちません。しかし、特定の地域において独占的な事業であることから無制限にコストを転嫁できないよう、鉄道運賃は「総括原価方式の下での上限価格制」や「ヤードスティック方式(基準比較方式)」により決定され、国土交通省への届出制となっています。
鉄道運賃は一般的に「総括原価方式の下での上限価格制」によって決められていますが、JRグループ各社と大手民鉄についてはさらに効率的な経営が要求される、「ヤードスティック方式(基準比較方式)」が採用されています。
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①総括原価方式の下での上限価格制
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鉄道事業者が、人件費や減価償却費などの費用合計に鉄道事業者の利益を加えた「総括原価」を申請し、「上限運賃」として認可を受け、この範囲で鉄道事業者が運賃を決定し届け出をする制度です。
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②ヤードスティック方式
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営業費のうち、路線費・電路費・車両費・列車運転費・駅務費については、国土交通省が定めた「基準コスト」を基準として適正コストを決定し、これに各鉄道業者の税金や減価償却費、利益を加えて「総括原価」を決定する方式です。具体的には国土交通省が最初に「基準コスト」を設けておき、各鉄道事業者において実際に発生した路線費等と比較して適正コストを判定します。両者を比較して、「基準コスト」の方が低かった場合には「基準コスト」が適正コストとされます。また「基準コスト」の方が高かった場合には、両者の間が「適正コスト」となります。これにより、鉄道運賃は基準コストが上限となりその範囲で決定されます。
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(3)共通カード乗車券等の拡大
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①SFカード
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共通カード乗車券は、1990年代の後半から2000年代前半にかけて、磁気カードの形態で「ストアード・フェアカード」(SFカード。ストアード=蓄積する、フェア=運賃)として導入されました。この「SFカード」は乗降情報を記録することができるので、券売機で切符を購入する必要がなくなり自動改札機に通すだけで電車に乗れるようになったほか、一つの鉄道事業者のみでなく、複数の加盟鉄道事業者間では1枚のカードで乗り降りできるようになりました。
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②ICカード
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鉄道事業者は現在、共通カード乗車券のICカード化を急速に進めています。ICカード化することにより偽造や変造の可能性が低くなり、またICカードには運賃の決済のみに限らずさまざまな機能を付加できるようになったためです。
近年は、JRグループ(スイカ、トイカ、イコカなど)や民鉄(パスモ、ピタパなど)が発行するICカード乗車券を相互利用することが可能となり、利便性が格段に向上しました。これらのICカード乗車券を運賃の精算に限らず、代金決済手段として利用できる店舗が広がってきています。このほかクレジットカード機能を付加する鉄道事業者もあります。
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(4)多角化経営
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駅は人が移動するときの通り道になりますので、鉄道事業者は駅を拠点とした土地に密着した事業を多角的に展開しています。都心のターミナル駅周辺では、オフィスビルや店舗の賃貸業、百貨店、ホテル業などを経営しています。また、郊外の駅周辺では不動産業、建設業、スーパーマーケットやレストランなどの事業を行っています。
鉄道事業者は、現在、少子高齢化による輸送人員の減少という事業リスクを抱えています。このため大手民鉄の多くは、収益源の確保のため関連事業を強化しており、事業の種類別セグメント情報において、鉄道事業の売上より関連事業の売上高の合計が多い会社もあります。
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第11回:商社・卸売業に特有の会計処理と税務 (2010.02.25) - 不動産業
第4回:保有目的の変更・不動産の時価 (2010.02.18) - 不動産業
第3回:不動産賃貸業の事業と会計の特徴 (2010.02.03) - 不動産業
第2回:不動産分譲業の事業と会計の特徴 (2010.02.01)




