業種別会計の基礎


医薬品業
第3回:医薬品卸売業の会計処理の特徴 (2009.05.12)

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2.会計処理の特徴

(1)仕入に係る特徴

製品の仕入取引に関して、医薬品卸売業界においては次のような特徴があります。

薬価の存在と医薬品卸企業の損益構造

医薬品は、製薬企業→医薬品卸企業→医療機関等と流通し、製薬企業から医薬品卸企業への販売単価を「仕切価格」と呼び、医薬品卸企業から医療機関等へ卸す価格を「納入価格」と呼びます。

ここで、上記のように売り先である医療機関等からの値引き要請が厳しいこともあり、実際は「納入価格」が「仕切価格」を下回り売買差損が生じる例も少なくないといえます。このため医薬品卸企業は製薬企業から受け取る仕入割戻し(リベート)や報奨金(アローアンス)によって流通マージンを確保している状況ともいわれます。

製薬企業からのリベート・アローアンス

薬価引き下げが続く中、一律な「仕切価格」の値下げは抑えられがちであり、製薬企業と医薬品卸企業の間には①に記載のようにリベートやアローアンスなどの商慣行が存在しています。

(会計処理)

通常、仕入高の控除として仕入相殺処理がなされます。

リベート、アローアンスの区別は支払う側の経理処理の問題であり、両者とも受け取る側にとっては自社の販売利益や販売価格の引き下げの原資となるマージンの一部であり、市場の実態に即した価格形成を促進する効果も持っているものといえます。ゆえに製薬企業から受け取るリベートやアローアンスは実質的に「仕切価格」の引き下げに相当するものと判断し、仕入高から控除する処理が一般的と考えられます。

【仕訳例】

(受取時)

(借)

仕入割戻等未収入金

○○ (貸)

仕入

○○

なお、管理会計上は両者を区分して把握することが多いといえ、リベートを二次差益、アローアンスを三次差益と呼ぶこともあります。

アローアンスについては、昨今の内部監査や税務調査の厳格化等により不透明な支払い基準は是正される状況にあるといえます。そして、医薬品業界としては卸機能を評価するリベートの割合を高くし、アローアンスの割合を縮小させる傾向にあるといえます。

(2)売り上げに係る特徴

仮納入、薬価引き下げと暫定値引き

医療機関等への販売については、医薬品卸企業と医療機関等との間で「納入価格」交渉が未妥結のまま商品だけが仮納入され、その後に価格交渉を始めるという特殊な取引形態の商慣行も従来、存在してきました。このような商慣習が生まれた背景には、医薬品という商品が直接生命にかかわるものであるため社会的観点から納入停滞が許されない、納入を中止することができないという事情が考えられます。

近年、各医薬品卸企業においては流通改善の取り組みに注力し、仮納入取引については縮小、廃止の傾向にあります。また、仮納入取引が一部行われている場合であっても経済合理性に基づく価格交渉を徹底し、早期の価格妥結に向け取り組むものと考えられます。

このような状況のもと、薬価改定年度については特に留意が必要と考えられます。

薬価改定は現在2年に1度実施されていますが、薬価の引き下げに伴い医薬品卸企業から医療機関等へ卸す「納入価格」の交渉も実施されます。「新納入価格」は新年度の4月より適用されるものであり、売り先や医薬品の種類により1年契約のものもあれば2年契約のものもあり、その契約交渉状況はさまざまです。

ここで、売り先である医療機関等からの値引き要請が厳しい一方で医薬品卸企業における利幅は縮小の傾向にあることから、両者の利害は対立する関係にあり、新納入価格の妥結がなされるまでには期間を要することもあります。

このような場合、医薬品卸企業は新納入価格の妥結がなされていない期間は、いったん仮単価により売り上げを計上し、妥結されるであろうと合理的に予測される新納入価格まで「暫定値引き」を実施することとなります。

(会計処理)

随時「新納入価格」の妥結決定予測価格を見直し、売上計上処理を行います。特に各四半期・年度決算末において見直しがなされた場合には、合理的な妥結決定予測価格を見積もり売上値引き処理を行います(暫定値引き)。ただし、売買価格が確定するまでの支払いについては、薬価を基に算定した暫定的な支払いが行われるのが通例となります。

一般的に「新納入価格」は年度会計期間内には妥結決定がなされます。

総価取引

医療機関等への販売については、商品ごとに販売価格を交渉して納入する通常の販売方法のほかに、ごく一部の医療機関等には製造企業も種類も異なる複数品目にわたる商品をひとまとめにして、その商品群の合計金額から値引きして販売する「総価取引(総価山買い)」と呼ばれる納入方法で取引される商慣行も存在しています。

総価取引は、一品ごとに価格交渉を行う取引と比べ取引に伴う費用の低減効果はあることから、取引自体が否定されるものではないともいえますが、本来的には医薬品を購入するに当たり医薬品の価値と価格を考慮した上で採否を決定することが望ましいとされています。

そして、総価取引のうち医療機関等に対して品目ごとの価格が明示されない取引は、薬価調査により把握されない取引として取り扱われます。薬価は薬価調査によって市場実勢価格を把握した上でそれに基づいて決定されるものであることから、このような取引は現行の薬価制度の信頼性を損なう取引であるといえ、ゆえに公的医療保険制度のもとでは、個々の取引において品目ごとの価格を明示することが望まれるとされています。

各医薬品卸企業は、このような総価取引についても流通改善に向けて取り組んでいるものと考えられます。

(会計処理)

通常の値引き処理と同様、売上高の控除として売上相殺処理を行います。

返品

医薬品卸企業においては、契約などにより医療機関等へ販売した商品を無条件で販売価格により引き取る行為も商慣行として存在しているといえます。

返品に係る会計処理は次のようになります。

(会計処理)

返品時においては、通常返品された商品に係る販売金額について売上取消処理を行います。

また、医薬品卸企業と医療機関等との間においては「返品分を販売価格により無条件に買い戻す」という商慣行となっているため、このような買い戻しによる損失の見込み額について重要性に応じて引当金を計上します。通常、売上高または期末売上債権残高について一定の返品率を乗じた金額(返品額)に売上総利益率を乗じて算出します。

【仕訳例】

(返品時)

(借)

売上

○○ (貸)

売掛金

○○

(引当金計上時)

期末に売上債権残高10,000百万円について返品率10%、売上総利益率10%として返品調整引当金を計上する場合を例にします。

(単位:百万円)

(借)

返品調整引当金繰入額

100 (貸)

返品調整引当金

100

なお、医薬品卸企業と医療機関等においてはできる限り返品が生じないような取引の推進などの取り組みもなされてきているようです。

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