業種別会計の基礎


医薬品業
第2回:医薬品製造業の会計処理の特徴 (2009.05.07)

新日本有限責任監査法人 医薬品業研究会
12| 次のページ

1.医薬品製造業の特徴

「医薬品製造業」とは薬事法により厚生労働大臣の許可を受けてこの医薬品の製造販売を行う企業群が属する業界を指します。

「医薬品製造業」企業には、

医療用医薬品を主力製品とする企業

一般用医薬品を主力製品とする企業

ジェネリック医薬品を主力製品とする企業

などが考えられます。

以下、新薬を取り扱う医療用医薬品企業を主眼として次の解説をします。

  • 医薬品製造業の特徴、仕組み

  • 会計処理の特徴:研究開発、収益認識・測定、その他

新薬開発への取り組み

医薬品製造業においては新薬を開発できるか否かが企業の命運を左右することとなります。画期的な新薬を開発するための研究開発活動は、医薬品製造企業(以後、製薬企業)にとって最も重要な活動になります。

特にパイプライン(有望な新薬の種)は世界的に枯渇しているため、パイプラインを確保し新薬開発に結びつけるために製薬企業はさまざまな活動を行うこととなります。

研究開発に係る取引、さらには知的資産に係る取引などに留意が必要です。

多品種少量生産と流通の仕組み

医薬品は多品種少量生産品であり、かつ生命に関連する商品であることから安定供給が要求されます。

ゆえに特に医療用医薬品については、一般的に流通の専門機能を持つ「医薬品卸企業」を通して医療機関等への販売取引が行われます。すなわち製薬企業から医薬品卸企業へ、医薬品卸企業から医療機関等への販売が行われることとなります。

製薬企業と医薬品卸企業との間における取引、契約、商慣行なども留意すべき視点となります。

ジェネリック医薬品に対する取り組み

近年、わが国のジェネリック医薬品の普及促進政策、医薬品業界の2010年問題などから、ジェネリック医薬品のシェアは上昇傾向にあります。

医療用医薬品企業にとってもジェネリック医薬品分野への取り組みは欠かせない視点となります。

2.会計処理の特徴

(1)収益の認識・測定に係る特徴

製品の売り上げに係る収益の認識・測定に関しては次のような特徴があります。

出荷基準の妥当性と落差回収

医薬品業界においては、医薬品販売は物品の授受を伴う取引であるため出荷基準による収益認識が慣行となっています。

なお、医薬品の流通の仕組みは製薬企業→医薬品卸企業→医療機関等となりますが、製薬企業の販売代金の回収方法につき、医薬品卸企業が医療機関等へ販売した部分(実消化部分)に対してのみ代金回収請求を行う商慣行も従来、存在してきました。このような回収手段は「落差回収」と呼ばれます。

落差回収が行われる場合には、「(b)対価としての現金又は現金同等物の受領」の条件を満たしているか否かについて留意が必要です。

薬価の存在とその改定

医薬品流通において、製薬企業から医薬品卸企業への販売単価を「仕切価格」と呼び、医薬品卸企業から医療機関等へ卸す価格を「納入価格」と呼びます。

医療用医薬品については、「薬価」と呼ばれる公定価格が存在します。薬価は医療機関における診療報酬の請求単価となります。

ゆえに構造的に「仕切価格」は最終消費者価格である「薬価」を基礎として価格構成されることとなります。薬価改定により薬価の引き下げがなされる場合には、「仕切価格」も引き下げの影響を受けることとなるため、製薬企業の「仕切価格」決定には、医薬品卸企業との交渉も必要となります。

卸へのリベート・アローアンス

薬価引き下げが続く中、一律な「仕切単価」の値下げは抑えられがちであり、製薬企業と医薬品卸企業の間には「売上割戻し(リベート)」や「報奨金(アローアンス)」などの商慣行が存在しています。医薬品業界においては、名称のいかんを問わず実態に応じて一般的に次のように区別しています。

  • 売上割戻し(リベート)

    通常マージンのほかに、一定条件に基づいて取引先に行われるリベートを指します。医薬品卸企業から医療機関等への販売(卸の実消化)につき一定金額、一定数量を超える売上を達成した場合などに契約による割戻し基準に基づいた金額が製薬企業から医薬品卸企業へ支払われることとなります。

(会計処理)

通常、値引き処理と同様に売上高の控除として売上相殺処理がなされます。

金額が確定していない場合においても、重要性に応じて合理的に見積もり可能な金額を引当計上します。この場合製薬企業においては、医薬品卸企業の保有する在庫に対して将来発生すると思われるリベート金額を、契約等に従ったリベート計算基準による見積もりを行い、引当金計上することとなります。

【仕訳例】

(売上割戻し確定時)

売上割戻しにはその額だけ現金を渡す場合もあれば売上債権を減額させる場合もあります。ここでは債権を減額させる場合を例とします。

(借)

売上

○○

(貸)

売掛金

○○

(引当金計上時)

(借)

売上

○○

(貸)

売上割戻引当金

○○

  • 報奨金(アローアンス)

    製薬企業が医薬品卸企業における販売を促進するためなど、多種多様な形で製薬企業が政策的に支出するものを指します。医薬卸企業における各種販売促進活動の成果に応じ、医薬品卸企業が支出すべき販売費用に対しての一部補てんを行う場合などが考えられます。

(会計処理)

通常、販売促進を目的として支払われることから、販売促進費等の費目により販売費および一般管理費として経理処理がなされます。

金額が確定していない場合においても、引当要件を満たすものについては重要性に応じて合理的に見積もり可能な金額を引当計上します。

【仕訳例】

(報奨金確定時)

(借)

販売促進費

○○

(貸)

未払金

○○

(引当金計上時)

(借)

販売促進費

○○

(貸)

販売促進引当金

○○

12| 次のページ