業種別会計の基礎


食品・飲料メーカー
第3回:製造工程と原価計算 (2009.09.25)

新日本有限責任監査法人 消費者製品製造業研究会

1.原価計算の概要

(1)食品・飲料メーカーにおける原価計算の概要

食品・飲料メーカーにおける特徴として、製品が生もの等であることから、機械製造業などのほかの製造業と比較して、製造工程が比較的短く、単純であることが挙げられます。製造工程が短いことを起因とし、特に食品製造業等においては、棚卸資産に占める仕掛品もしくは半製品の比率が比較的低い傾向があります。

同種の製品を大量に連続して生産するという性質上、原価計算は個別原価計算ではなく、総合原価計算を採用し、具体的には以下の原価計算体系に整理できます。

【図1 食品・飲料メーカーにおける原価計算】

食品・飲料メーカーにおける原価計算

原価計算に総合原価計算を採用する場合、大局的な流れとしては、どういうコストを原価として把握・集計し、売上原価・期末在庫に配賦していくか、という点が問題になります。

ここで、原価の集計・配賦手続として、同じ種類の製品を反復継続して製造する場合には単純総合原価計算を、同一工程内で同じ種類の製品を製造し、当製品を大きさなどにより複数の等級に区分する場合には等級別総合原価計算、異なった種類の製品を同一工程内で反復継続して製造する場合には組別総合原価計算を採用します。

(2)食品・飲料メーカーにおける原価計算の財務報告の流れと会計処理

食品・飲料メーカーにおける原価計算の財務報告の流れと会計処理としては、図2のように製造工程に沿って投入される材料量や加工される半製品・製品の数量を生産管理システムによって把握し、原価計算システムにて原価差額の配賦計算を行い、当該計算結果を会計システムに反映させます。

【図2 食品・飲料メーカーにおける原価計算の流れの例】

食品・飲料メーカーにおける原価計算の流れの例

食品・飲料メーカーでは、予算策定時において原価発生時の計算の基礎となる標準(ないしは予定)原価および、間接費に対する各工程の配賦率を設定します。なお、標準(ないしは予定)原価や配賦率に関しては、市場環境の変化や工場ラインの更新などにより、期中においても適宜見直しが図られます。

実際の原価発生時においては、実際原価が把握されますが、同時に標準(ないしは予定)原価との差額(原価差額)も把握されることになります。

また、製造中の製品が工程を流れることで、当仕掛品もしくは半製品に対する経済的価値が増していくと考えられますので、工程を流れるたびに間接費が当該仕掛品もしくは半製品に配賦されていきます。

さらに、原価計算期間(例えば1カ月など、企業の管理目的に応じて計算期間が設定されます)が終了する時点においては、原価差額を原価計算システムによって期末(月末)在庫に配賦し、計算結果が会計システムに転送されることになります。

(3)食品・飲料メーカーの原価計算に関連した財務報告に係るリスクと統制活動

『財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準』のII.2(2)②イでは、「一般に、原価計算プロセスについては、期末の在庫評価に必要な範囲を評価対象とすれば足りると考えられるので、必ずしも原価計算プロセスの全工程にわたる評価を実施する必要はないことに留意する。」とされており、原価計算上の複雑な計算過程に対して、評価範囲が過大にならないように配慮が求められています。

原価計算については次のような財務報告に係るリスクと統制活動(図3)が考えられます。

【図3 原価計算における財務報告に係るリスクと統制活動の例】

原価計算プロセス 財務報告に係るリスクの例 統制活動の例
  • 単価マスタ入力・間接費配賦基準設定

  • 単価マスタの入力誤り

  • 配賦基準の設定誤り

  • 単価設定時の承認手続

  • 配賦基準の承認手続

  • システム登録時の入力チェック

  • 実際製造原価の計上及び集計・期末在庫への配賦計算

  • 実際原価の計上誤り

  • 実際原価の集計漏れ・二重計上

  • 期末在庫への配賦計算漏れ

  • 原価項目の受入時における納品書・請求書などの取引証憑と会計伝票との照合及び承認

  • 生産管理システム、原価計算システム、会計システムに対するIT全般統制と業務処理統制

  • 期末在庫表に対するサンプルの計算チェック

  • 原価差額の配賦計算

  • 原価差額の配賦計算誤り

  • 原価差額配賦結果のサンプルの計算チェック

  • 原価差額に対する期末残高チェック

  • 管理部門における期末単価の妥当性検証

  • 生産管理システムから原価計算・会計システムへのデータ転送

  • システム間におけるデータの誤転送、転送漏れ、二重転送など

  • 各システム間の残高の照合

  • 生産管理システム、原価計算システム、会計システムに対するIT全般統制と業務処理統制

2.食品・飲料の製造工程と原価計算の例

(1)ビール製造業

ビール製造における製造工程

原価計算の目的は製品単位当たりの適正な原価を把握することにあります。原価計算はどのような原材料をどこの工程で投入し、どのような加工作業が加わるのかを把握し、その流れに沿ってコストを集計・配賦していくことですので、製造業において適正な原価計算を行うためには、製品の製造工程を把握することが不可欠です。例えばビール製造工程をまとめると図4のとおりになります。ビール製造工程としては、大きくa.製麦工程、b.仕込工程、c.発酵工程、d.貯酒工程、e.容器詰工程に分かれます。

【図4 ビールの製造工程】

図4 ビールの製造工程

a.製麦工程…

ビール大麦をビール製造に適した麦芽に加工します。

b.仕込工程…

細かく砕いた麦芽と米などの副原料を温水と混ぜあわせ、ろ過後、ホップを加え煮沸します。

c.発酵工程…

麦汁をろ過・冷却し、これに酵母を加えます。

d.貯酒工程…

貯酒タンクにて低温で数十日間貯蔵されます。

e.容器詰工程…

缶、瓶あるいはたるに詰められて市場に出荷します。

ビール製造における特徴としては、製造に際して仕込・発酵・貯酒等の比較的大規模な設備投資が必要になり、典型的な装置産業としての性格が強いことが挙げられます。

ビール製造における原価計算の概要

ビール製造業における原価計算の特徴としては、同種の製品を大量に連続生産するということから、「工程別総合原価計算」を採用していることが挙げられます。

ビール製造業の原価の内訳としては、図5のようにまとめられます。

【図5 ビール製造に係るコストの内訳】

項目 内容
材料費 麦芽、ホップ、水、その他副原料
労務費 ビールの製造に従事する(主に工場その他製造部門)従業員の人件費
経費 固定資産の減価償却費、光熱費等

ビール製造業の場合、主な材料費としては上記の通り、麦芽・ホップ・水であり、基本的には当原材料を工程ごとに加工をすることで最終的なビールとして製品となります。

製品原価計算の過程においては、ビール製造業では、同一工場内でも複数の銘柄を製造するとともに、同一の銘柄に対しては複数の容量製品を製造しているケースが多いことから、等級別総合原価計算を採用しています。

(2)食肉加工業

ハム・ソーセージ製造における製造工程

ハム・ソーセージの製造工程は、製造の流れに従って見ていきますと、a.肉の解凍・整形工程、b.配合工程、c.塩漬工程、d.充填(じゅうてん)工程、e.熱処理工程、f.冷却工程、g.包装工程となります。これらは会社によって多少名称が異なることがあると思いますが、各工程での作業内容はおおよそ図6のように示すことができます。

【図6 ハム・ソーセージの製造工程】

図6 ハム・ソーセージの製造工程

a.肉の解凍・
   整形工程…

製造向けに原料肉を解凍・整形する。

b.配合工程…

添加物等を原料肉に配合する。

c.塩漬工程…

配合後に原料肉を一定期間静置する

d.充填工程…

塩漬けされた原料肉をケーシング・羊腸などに充填する。

e.熱処理工程…

充填された原料肉をボイル、スモークなどして熱加工する。

f.冷却工程…

熱処理された原料肉を冷却する。

g.包装工程…

製造されたハム・ソーセージをスライスしたりパック詰めを行う。

ハム・ソーセージ製造における原価計算

食肉加工業の大手数社の有価証券報告書によると、採用している原価計算方法は単純総合原価計算としており、さらに製品原価計算の過程において等級別原価計算を行っているとしている会社が多いようです。単純総合原価計算といっても、実際は前出の図1で分類された中でいう工程別単純総合原価計算を採用しています。また等級別原価計算を行っているのは、同一原料から複数規格の製品が作られるためです。ハム・ソーセージ製造における原価の主な内訳を示すと図7のようになります。

【図7 ハム・ソーセージ製造に係るコストの内訳】

項目 内容
材料費 主材料(原料肉、脂肪など)、補助材料(添加物、ケーシングなど)
労務費 工場製造部門人件費、工場管理部門人件費
経費 固定資産の減価償却費、水光熱費、運搬費、外注加工費など

製造原価に占める内訳の比率を大手各社で比較してみますと、材料費が55%から80%の間、労務費が2%から16%、経費が14%から31%と幅があります。これは各社の製品構成(ハム・ソーセージ、調理加工食品、食肉など)の違い(ハム・ソーセージや加工食品の製造には労務費・経費がかかりますが、食肉の加工にはそれほどの手間がかからないため、材料費の比率が高くなる傾向にあります)や外注加工にどの程度依拠しているか(外注加工の依存度が高い場合には、労務費の比率が低く、経費の比率が高くなります)によって異なっていると考えられます。

【図8 製造原価の内訳比率(平成20年3月期)(単位:%)】

内訳 A社 B社 C社 D社 E社 F社
材料費 62.4 68.5 55.2 71.9 80.8 68.6
労務費 15.9 13.5 13.8 2.2 5.2 16.0
経費 21.7 18.0 31.0 25.9 14.0 15.4

ハム・ソーセージの原価計算自体は複雑な計算を行うため、通常システム化されています。毎日の製造過程において出来高数量を工程ごとに把握し、当該データを原価計算システムへ投入します。

材料費はこの数量データに基づいて製品原価が計算されます。一方、労務費・経費などの加工費は、月次の発生額を部門別に原価計算システムへ投入し、あらかじめシステムに登録されている配賦基準に基づいて各製品に配賦計算されます。

配賦基準については各会社でどの程度まで精緻(せいち)に計算を実施するかによって異なりますが、労務費などは事前に設定されている製品ごとの工数と出来高数量から積数を算定し、その積数に基づいて配賦することが考えられます。また経費は単純に出来高数量に基づいて配賦することが考えられます。