4.路線バス業の会計処理と表示の特徴
-
(1)固定資産の特徴
-
路線バス業における主な設備投資には、営業所やバス停、バス車両、ICカードなどの決済機器などがあります。このうち、営業所やバス停は、ほぼ初期投資のみですが、バス車両の入れ替えは毎年、頻繁に発生します。バスの入れ替えにより、バリアフリー化・環境対応などを実施しますが、環境に関連して排ガス規制が強化された年度においては、特に集中的な入れ替えとなり、投資額が多額になります。固定資産への投資は減価償却を通じて費用化されますが、最近の税制改正による耐用年数の変更により、バス車両にかかわる減価償却費は会社の損益に大きな影響を与えています。
路線バス業では、バス車両やバス関連機器(ICカード決済機器など)の購入、またはバス停の設置に当たっては、公共の利益が図られることをかんがみ、地方公共団体などから補助金が支給される場合があります。このような固定資産取得に関連した補助金は、課税の繰り延べを行うため、圧縮記帳の会計処理が行われます。この場合、固定資産の貸借対照表価額から補助金等相当額を直接控除する方法と、新たに圧縮積立金を計上する方法があります。
-
(2)経費(燃料費・人件費)の特徴
-
バスを運行するに当たっての経費としては、減価償却費、燃料費と運転手の人件費などが主要科目です。耐用年数の変更などによる減価償却費への影響は前述のとおりです。燃料費については、ここ数年の原油価格の変動が会社の損益に大きな影響を与えています。人件費は、団塊世代の退職者が増加していることから、低下傾向にあります。これらの経費は基本的に期間費用として会計処理されます。
-
(3)運賃収入の会計処理
-
バス業の主たる事業は、一般乗合旅客自動車運送事業である路線バス業ですが、その収入形態には、
①運賃・回数券の発売による収入
②定期券の発売による収入
③バス(共通)カードの利用による収入
④ICカード乗車券の利用による収入
などがあります。
これらの収入形態については、それぞれに異なる会計処理、財務報告に係るリスク、それにかかわる統制活動があります。それぞれの会計処理と内部統制におけるポイントは、以下のとおりです。
-
①運賃・回数券の発売による収入
-
a.現金売り上げ
-
路線バスでは、乗車時または降車時に、乗客が設定された運賃を運賃箱に入れます。一日の運行が終了すると営業所で運賃箱が回収され、その回収額を基に収益を認識します。運行日に運賃箱はすべて回収してカウントされるため、売上計上日の期間帰属に関するリスクは低いものと考えられます。
現金回収の場合、乗客が運賃箱に運賃を入れた後、現金のカウントは機械により行われ、営業所からの銀行への納金は金融機関の方が直接回収するなど、従業員が極力、現金に触れないような内部統制が整備されています。
-
b.回数券
-
回数券は、営業所などで販売され、乗客がバスに乗車する都度、運賃箱に入れますが、短期間ですべて使用されることから、その発売時点において収益を認識するものと考えられます。
-
②定期券の発売による収入
-
定期券は駅前サービスセンターや営業所などで発売されており、1カ月、3カ月定期券といったものが一般的です。
収益計上額は、発売時に全額を収益とせずに、経過期間に応じて収益計上し、残額は前受収益として計上します。その按分方法は月数按分が一般的であると考えられます。具体的には、使用開始日は月の1日から末日まで考えられるため、使用開始月と期限到来月は半月分を収益計上することが考えられます。この方法によれば、1カ月定期券では発売月と翌月に2分の1ずつを、3カ月定期券では発売月に6分の1、翌月、翌々月に6分の2ずつ、3カ月後に6分の1を計上することになります。
なお、会計処理は会社によって異なり、以下の仕訳例に関しても、例示であり、画一的処理が求められるものではありません。
-
③バス(共通)カードの利用による収入
-
バス(共通)カードとは、該当エリアに路線を持つ路線バスで共通して利用できるプリペイドカードです。券種は1,000円券、3,000円券、5,000円券があり、小銭を持つ必要がないため支払いが便利であり、ほかのバス会社でも共通して利用できる、割引がある、などのメリットがあります。また、そのデザインの良さから購入後、保有されたままの場合もあります。
このカードは、購入した時のバス会社と使用した時のバス会社が異なることもあるため、販売記録と使用記録を管理会社へ持ち寄り、月々精算する形となっています。カードは金券であるため、日々のカード在高の管理が内部統制のポイントになります。
バス(共通)カードの利用による収入の仕訳例は以下のとおりです。
【仕訳例】
バスカードの発売時は入金額を預り金処理し、使用実績に応じて、売上計上または精算処理する方法
-
ⅰ.バスカード発売時
| (借) | 現金 |
100 | (貸) | 預り金 |
100 |
受領したバスカードの販売代金を預り金に計上します。
-
ⅱ.乗車・バスカード使用時
| (借) | 売掛金 |
80 | (貸) | 旅客運賃収入 |
80 |
バスカードの使用金額80を収益計上し、いったん売掛金に計上します。
-
ⅲ.上記ⅱが当社で購入されたバスカードを当社で使用された場合の精算仕訳
| (借) | 預り金 |
80 | (貸) | 売掛金 |
80 |
発売時に計上した預り金と売掛金を相殺します。
-
ⅳ.上記ⅱが他社で購入されたバスカードを当社で使用された場合の精算仕訳
| (借) | 現金 |
80 | (貸) | 売掛金 |
80 |
他社が受領したバスカード代金のうち当社使用分が入金されます。
-
④ICカード乗車券の利用による収入
-
路線バス業者は近年、非接触型ICカード方式の鉄道・バス共通乗車カード〔スイカ(JRグループ)、 パスモ、ピタパ(民鉄)など〕を導入しています。これには、以下のメリットがあります。
一枚のカードを鉄道・バスの両方で利用することが可能となり、利便性が格段に向上しました。
ICカード化することにより偽造や変造の可能性が低くなりました。
ICカードには、運賃の決済に限らず、店舗での代金決済手段として利用したり、クレジットカードなど、さまざまな機能を付加できるようになりました。これは、長年行ってきた多角化経営にも大きなメリットを与えると考えられます。
(会計処理)
ICカードへのチャージ額は預り金として計上され、実際の使用時に収益を認識します。その後、チャージ会社と使用会社が異なることもあるため、精算手続きを実施します。この精算に当たっては、ICカードを利用する会社が加盟する管理会社で一元管理されています。ICカード乗車券の仕訳例は以下のとおりです。
【仕訳例】
乗客がICカードに当社で10円を、それ以外を他社でチャージしたものとします。乗客は80円の区間に乗車したとします。
-
ⅰ.ICカードチャージ時
| (借) | 現金 |
10 | (貸) | 預り金 |
10 |
受領額をいったん預り金に計上します。
-
ⅱ.使用時
| (借) | 売掛金 |
80 | (貸) | 旅客運賃収入 |
80 |
運賃金額を収入と売掛金に計上します。
-
ⅲ.精算(売掛金と預り金の差額を精算)
| (借) | 預り金 |
10 | (貸) | 売掛金 |
80 |
現金 |
70 | ||||
当社でチャージされた10円部分については、預り金と売掛金を相殺し、他社でチャージされた分70円については、他社からの入金により売掛金の回収として処理します。
-
(4)バス業者の営業損益の表示
-
バス業者の営業収益の表示は、鉄道事業者のように別記規定(鉄道事業会計規則)はありませんが、以下の表示区分・科目により記載されています。
(個別損益計算書における売上高および売上原価の表示例)
一般旅客自動車運送事業営業収益 |
||
旅客運送収入 |
××× |
|
運送雑収 |
××× |
|
合計 |
××× |
|
一般旅客自動車運送事業運送費 |
××× |
|
営業利益 |
××× |
|
- 化粧品・トイレタリー業界
第3回:無形資産、設備投資、宣伝物等の会計処理の特徴 (2010.07.12) - 化粧品・トイレタリー業界
第2回:収益認識に関連する取引慣行および会計処理の特徴 (2010.07.09) - 化粧品・トイレタリー業界
第1回:化粧品・トイレタリー業界の範囲と各種流通システムの解説 (2010.07.08) - 自動車産業
第3回:メーカー・ディーラーの事業・会計処理の特徴 (2010.07.07)




