解説シリーズ


棚卸資産の評価に関する会計基準:第1回(2008.06.12)

新日本ナレッジインスティテュート
新日本監査法人 公認会計士 湯本純久
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1.はじめに

企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下、棚卸資産会計基準)が平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。それ以前の早期適用も認められていて、例えば、平成20年3月期から早期適用する会社は、中間決算からの適用を原則としますが、受入体制が整っていないなどの理由から、年度決算から適用することも想定されています(棚卸資産会計基準第68項(3))。

平成20年4月1日以後に開始する事業年度から適用する会社においては金融商品取引法に基づく四半期開示制度が平成20年4月1日から適用されるため、3月決算会社の場合、第一四半期末の平成20年6月末時点で棚卸資産会計基準に基づき四半期財務諸表を作成する必要がありますので棚卸資産会計基準導入の準備が必要となります。この解説シリーズにおいては、棚卸資産会計基準の適用に当たっての実務上のポイントを解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

2.棚卸資産会計基準が設定された経緯、基準適用の範囲
<ポイント>
保有している棚卸資産は、「通常の販売目的」か、それとも「トレーディング目的」か
「通常の販売目的で保有する棚卸資産」であれば収益性の低下で帳簿価額切り下げ
「トレーディング目的で保有する棚卸資産」であれば、市場価格に基づいて評価

棚卸資産会計基準は、近年整備されてきた他の会計基準の整合性や棚卸資産の評価基準として低価法を原則とする国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点からこれまでの原価法と低価法の選択適用を見直し、収益性の低下による簿価引き下げという考え方に基づいた評価基準や開示方法に関して整備したものです。本会計基準の適用の範囲は、棚卸資産を「通常の販売目的で保有する棚卸資産」と「トレーディング目的で保有する棚卸資産」に区分して、前者については、収益性の低下によって帳簿価額を切り下げること、後者については、市場価格に基づいて評価することを定めています。

3.トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準
<ポイント>
トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は、当期の損益として処理
当該損益については、売上高に計上するが、重要性がなければ営業外損益で処理することも可能である

トレーディング目的で保有する棚卸資産については、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)については、当期の損益として処理します(棚卸資産会計基準第15項)。トレーディング目的で保有する棚卸資産として分類するための留意点や保有目的の変更の処理については、「金融商品に係る会計基準」における売買目的有価証券の取り扱いに準ずるものとされています(棚卸資産会計基準第16項)。

トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益の表示は、原則として関連損益を純額で売上高の計上区分に計上します。ただし、当該金額の重要性が乏しい場合には営業外収益または営業外費用として計上することができます(財務諸表等規則第72条の2、連結財務諸表規則第51条の2)。

4.棚卸資産に係る損益計算書の表示
<ポイント>
棚卸資産の収益性低下による簿価切り下げ額は、原則として売上原価で処理する
収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失処理する (EX 重要な事業部門の廃止、災害損失の発生など)

棚卸資産の収益性の低下による簿価切り下げ額は、売上原価として処理するが、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理します。また、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上します。この場合の具体的な例としては重要な事業部門の廃止、災害損失の発生などが挙げられるが限定的なケースです。

また、従来の会計実務では、費用計上した品質低下や陳腐化による評価損と低価法評価損との間にはその発生原因や棚卸資産の状態、販売価額の回復の可能性について相違があると考えられていましたが、棚卸資産会計基準では、棚卸資産の収益性の低下という考えに基づき会計処理上の取り扱いに相違を設ける意義は乏しく、また、特に経済的な劣化による収益性低下と市場の需給変化等に基づく正味売却価額の下落による収益性の低下は、実務上必ずしも明確に区分できないため、これらの取り扱いについて相違がないものと考えられ、当該収益性の低下は基本的に売上原価として処理することとされました(棚卸資産会計基準第39項 図表参照)。

現行の実務では、臨時の事象に起因し金額が多額な棚卸資産評価損について簿価切り下げ額を営業外費用または特別損失に計上する会計処理が行われていますが(原価計算基準5)、棚卸資産会計基準では、収益性の低下に基づき帳簿価額を切り下げる場合には原則としてすべて売上原価として処理されることに留意が必要です。

■図表
  従来の棚卸資産評価損の計上区分
  品質低下評価損 陳腐化評価損 低価法評価損
発生要因 物理的な劣化 経済的な劣化 市場の需給変化
棚卸資産の状態 欠陥 正常
売価の回復可能性 なし あり
従来の会計処理 製造費用、売上原価、販売費又は
営業外費用
売上原価又は
営業外費用
棚卸資産会計基準の取扱い 原則すべて収益性の低下として売上原価として処理する
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