不正の機会と内部統制(2008.06.04)
新日本監査法人 公認会計士 大久保明
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1.はじめに
最近、内部統制という言葉が世間を騒がせていますが、内部統制を考える上で切り離せないものにリスクがあります。簡単に言ってしまえば、内部統制とはリスクを低減させる仕組みのことです。
昨今ではいわゆるJ-SOXへの対応で経営者はリスク、とりわけ会計上のリスクに否が応でも対処する必要に迫られている状況にあります。
2.会計上のリスク
会計上のリスクの発生要素は不正に基づくもの、あるいは誤謬(ごびゅう)に基づくものに分類されます。
この場合、不正に基づいたリスクの例としては、現実の結果が50億円の赤字であるのに対し、期待される水準が30億円の利益であったときに、何らかの行為によって期待される水準である30億円に近似させるために80億円もの架空売上などの不正を行うことが挙げられます。
また、誤謬に基づいたリスクの例はさまざまですが、単価1,000円で販売すべき商品を誤って100円で販売してしまうことなどが挙げられます。
ここでは、より社会的にインパクトを与える可能性の高い「不正」に着目し、併せて不正を行う場合の「機会(チャンス)」および機会を低減するための「内部統制」について考察します。
【指令:製造業のA社に潜入して、1億円の架空売上伝票の入力を実現せよ】
- ボス!駄目でした。入り口の守衛にとがめられました。
- うん、そうか。手を挙げて親しそうにあいさつせよ。
- ボス!駄目でした。社員カードを持っていないのです。
- うん、そうか。中途採用に応募して入社せよ。
- ボス!喜んでください!エリート部門の人事部に配属になりました。
- 何をしているんだ。経理部に配置転換を申請しろ。
- ボス!喜んでください!経理部に配属になり、会計システムに触れるようになりました。
- うん、そうか。さっそく1億円の架空売上を入力しろ。
- ボス!駄目でした。上司に承認をもらえませんでした。駄目だって。
- 何をしているんだ。承認をもらわずに入力せよ。
- ボス!駄目でした。承認をもらわずに入力しても電子承認なので結局けられます。
- うん、そうか。売上入力のできるほかの方法はないのか?
- 販売システムから売上仕訳が自動で流れてくるそうです。
- それも電子承認か?
- 自動仕訳なので誰もチェックしてない、する必要がないって課長が言っていましたよ。
- うん、そうか。それだ!誰が売上を入力しているんだ?
- 受注情報の入力は営業部ですかね。
- うん、そうか。営業部に配置転換を申請しろ。
- ボス!駄目でした。君は営業部向きではないって言われました。
- うん、そうか。別に配置転換しなくてもいいわけだな。深夜に営業部に侵入して入力せよ。
- ボス!駄目でした。ユーザIDとパスワードが要求されます。
- うん、そうか。誰かの机にIDとパスワードを書いたメモはなかったか?
- 確認します。
- ボス!喜んでください。メモ書きがありましたので販売システムにログインできました。
- そうか!やったな!1億円分入力してきたか?
- 何をどう入力したらよいか分かりませんでした。
- 何をしているんだ。いろいろ試すんだよ。
- ボス!喜んでください。何とか1億円分の受注入力ができました。
- うん、そうか。架空売上が実現したわけだな?
- いいえ、明日には現実に出荷されちゃうと思います。
- それじゃ私の考える架空売上にならんだろうが。出荷を伴わない架空売上を実現させるんだよ。
- う~ん。営業部じゃ無理ですね。経理部に戻りましょうか?
- そうだな、指令だ。5年の時間をやる。経理課長になってこい。
- ボス!喜んでください。経理課長に昇格しました。
- うん、そうか。もう経理伝票の承認ができるわけだな?
- それが自分で入力した伝票を自己承認できないシステムなんです。
- ええい!誰かに入力させられないのか?
- 共謀は駄目だって最初にボスが言ったじゃないですか。
- うん、共謀は駄目だ。ほら、適当にだましてさ、入力させるんだよ。
- ボス!駄目でした。部下に断られちゃいました。証憑のない入力を禁じている業務規程に違反するって。結局決算伝票での入力の指示も断られちゃいました。
- ええい!しっかりした規程があって周知されているのだな。うん、10年の時間をやる。社長になってこい。社長なら何でもできるだろう。
- ボス!喜んでください。社長に選任されました。
- うん、そうか。社長なら会計システムで何でもできるだろう。
- それがボス。社長には会計システムにアクセスする権限がないんですって。必要ないって。
- しかし社長だろう?社長の命令は絶対じゃないのか?
- でも社長の威光で入力を指示するのはだめだって最初にボスが言ったじゃないですか。
- そんなことは言っていない。
- いいえ、言いました。
- うん、そうか。あとはどんな方法があるのだ。
- 情報システム部だとデータを直接いじれるそうです。
- それだ。情報システム部を兼務しろ。
- ボス!喜んでください。社長兼情報システム部長になりました。
- うん、そうか!では指令を達成したのだな?
- システムの知識がないのでばかにされております。今、初級シスアドを勉強中です。
- 何をしているんだ。データの改ざんを指示すればいいんだよ。
- ボス!駄目でした。データ変更の理由を聞かれて答えられませんでした。
- よし、100万円のインセンティブを与えてこい。
- ボス!駄目でした。100万円と自分の人生をてんびんにかけたようです。断られちゃいました。
- よし、いくらのインセンティブなら実施するのか聞いてこい。
- ボス!いくら積まれてもきちんとした申請書がなければやらないっていわれちゃいました。もういいですか?私も本業の社長業に戻りたいんですけど?
ボスいわく「はっ!これは内部統制が有効ってことなのか?」
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