コラム


IFRS導入の世界での潮流と日本の対応―なぜIFRSが選ばれるのか―
第3回:IFRSの特徴 (2009.03.23)

青山学院大学教授 橋本 尚

2008年11月に米国証券取引委員会(SEC)から公表された規則案「米国企業の国際財務報告基準(IFRS)に準拠して作成された財務諸表の採用へ向けてのロードマップ」については、2009年2月19日までという当初のコメント期限が4月20日まで延長されています。また、2009年2月には、わが国のIFRSのアドプション(採用)へ向けたロードマップ案が盛られた「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」と題する公開草案が公表されています(コメント期限4月6日)。さらに、SECは、2009年1月、米国会計基準を適用している大規模早期提出企業(時価総額7億ドル以上)のうち、世界で50億ドル以上の浮動株を有する企業について、2009年6月15日以降終了する報告期間(四半期を含む)からXBRL(拡張可能な事業報告言語)による財務情報の提出を義務付ける最終規則を公表しました。その他の上場企業についても、2010年6月15日以降または2011年6月15日以降終了する報告期間(四半期を含む)からXBRLによる財務情報の提出が義務付けられます。このようにXBRLという追い風を受けて、IFRSが世界的に普及するとの期待がますます高まっています。

こうしたIFRSの特徴として、①原則主義(プリンシプル・ベース)、②比較可能性の重視、③資産・負債アプローチ、④公正価値会計、キャッシュ・フロー会計、連結会計の重視、⑤経営者の恣意(しい)性の排除、⑥実質優先思考、⑦豊富な注記、⑧演繹(えんえき)的アプローチを挙げることができます。

原則主義(プリンシプル・ベース)

詳細かつ具体的な規定を設ける細則主義(ルール・ベース)とは対照的に、IFRSは、原理原則を明確にし、例外を認めないという原則主義に基づいて会計基準を設定しています。例えば、現在、開発が進められている新しい収益認識基準では、履行義務が消滅した(履行された)時点で収益を一義的に認識する包括的な会計基準を策定しようとしています。

細則主義によれば、一律の会計処理・開示がもたらされる一方で、会計基準の趣旨を骨抜きにしかねない巧妙な会計基準逃れが行われることが憂慮され、それに対応するために、会計基準が膨大化し、その開発コストがさらにかさむことも懸念されます。

これに対して、原則主義では、あくまで原理原則を示すという方針が貫かれ、個別・具体的な問題については、企業ごと、事例ごとに判断させ、その適否は監査人の専門的な判断に委ねるという方式が採用されてきました。また、IFRSでは原則主義の下に、解釈指針の公表も限定的で、詳細な解釈指針を定めない方針を採用しています。現場における協議や事例の蓄積を重視するというのがIFRSの基本的なスタンスです。従って、IFRS導入に際しては、IFRSの適用経験を積むことで、専門的な判断の定着化・共有化を図っていくことが求められるとともに、これまで慣れ親しんできた細則主義の会計基準とは根本的に異なるものであるとの理解に立ったいわば会計基準に対する意識改革も必要とされます。原則主義の会計基準に対応するためには、的確な会計知識を備えて自分の頭で考え、適時に適切な判断を下すことのできる人材の育成が不可欠です。会計教育・研修の現場も必然的に「会計の心」を理解する「考える会計学」へ、活きた事例研究を通じた実学の場へとシフトすることが求められるようになるでしょう。

比較可能性の重視

国際会計基準審議会(IASB)の「財務諸表の作成および表示に関するフレームワーク」で財務諸表の四つの主要な質的特性(比較可能性、理解可能性、目的適合性、信頼性)の一つとして挙げられているように、IFRSは比較可能性を重視しています。そのために、代替的会計処理方法を極力排除しています。現在、IASBは、代替的会計処理が残されているところでは、「原価モデル」や「再評価モデル」、「公正価値モデル」と表現しています。また、遡及(そきゅう)的適用や遡及的修正再表示により、財務諸表の比較可能性を確保・向上しようとしています。

資産・負債アプローチ

IFRSでは、資本取引以外による期首と期末の資本(株主持分)の変動としてとらえられる包括利益を経営者の意図に左右されない業績指標として重視しています。また、将来のキャッシュ・フローの予測という投資家の意思決定目的に適合する情報を提供するために、公正価値による測定を重視するなど、資産・負債アプローチの考え方に立脚した会計基準となっています。

公正価値会計、キャッシュ・フロー会計、連結会計の重視

IFRSやその前身の国際会計基準(IAS)は、企業の経済的実態を的確に反映するために、また、経営者の恣意性を排除するために、公正価値会計へのシフト、キャッシュ・フロー計算書の精緻(せいち)化を推進してきました。これに経済的単一体説に基づく連結会計を加えた三つは、IFRSの三大潮流といえましょう。

経営者の恣意性の排除

会計情報に経営者の意図を反映させるべきか否かという問題は、会計情報の有用性をも左右する会計学上の永遠の課題ですが、IFRSは、資本取引以外による期首と期末の資本(株主持分)の変動という経営者の意図に左右されない業績指標を重視しています。代替的会計処理方法を極力削除しているのも、比較可能性を高めるとともに経営者の恣意性(経営者の選択に委ねること)を排除するためです。

実質優先思考

IFRSは、表現の忠実性を重視する立場から、形式よりも実質を優先して、企業の経済的実態を明らかにしようとしています。

豊富な注記

IFRSでは、企業の経済的実態を明らかにするために、財務諸表の本体以外に、定量的にも、定性的にも豊富な注記が行われています。IFRSへの移行により、一番驚くことになるのは、注記の分厚さといっても過言ではありません。

演繹的アプローチ

世界の会計実務の中で慣習化されたものの中から妥当なものを抽出するという帰納的アプローチではなく、IFRSは、利用者の情報ニーズを満たす目的適合性のある会計情報を提供するために演繹的に会計基準を設定しています。また、迅速かつ機動的に対応可能なように個別のテーマごとに設定される会計基準相互間の理論的整合性を確保するために、概念フレームワークを設定しています。